建築技術研究所 です。
ブログやTwitterから建築士試験についてお伝えしています。
特に、製図試験のポイントや考え方について自身の受験経験を基に記事を作成しています。
試験に向けての学習の補助として活用していただけると嬉しいです。
- 一級建築士の製図試験で取扱う規模・用途の建物は、「耐火建築物」に該当する
- 耐火建築物の場合、面積区画は1,500㎡以内毎(スプリンクラーを使用しない場合)
- 面積区画の開口部に求められる性能は「特定防火設備」
- 竪穴区画の開口部に求められる性能は「防火設備」
- 試験において階を跨ぐ面積区画も標準化してきている
建物の性能(耐火建築物)
まず、この話をする前提として、一級建築士製図試験で取り扱う用途・規模の建築物は「耐火建築物」であることを理解しておく必要があります。
試験で取り扱う建物の多くは、建築基準法(以下、法という)第27条(耐火建築物又は準耐火建築物としなければならない特殊建築物)に該当しています。
事務所等で特殊建築物に該当しない場合は、法第61条(防火地域)・ 法第62条(準防火地域)に該当していることが多いです。
(試験では多くの場合、準防火地域に指定されています。)
防火区画
次に、防火区画についての条文を見ていきます。
防火区画(建築基準法施行令(以下、令という)112条各項)には主に、面積区画、竪穴区画、異種用途区画、高層区画があり、このうち、試験で3階建の計画を求められた場合に必要となる知識は、面積区画と竪穴区画です。R3の集合住宅の課題では、共同住宅とその他の部分に異種用途区画が求められました。
面積区画
前述の通り、計画建物は耐火建築物のため、1,500㎡以内毎の面積区画が求められます。(試験課題では、スプリンクラーは設けない旨が示されるため、倍読みの規定は適用できません。)
この時、求められる開口部の性能は特定防火設備です。
また、外壁面には、一般に「スパンドレル」と呼ばれる「50cm以上突出した庇や袖壁」もしくは「90cm以上の外壁」が必要となり、庇や袖壁を設けない場合で外壁が90cm以上ない場合は、その範囲にある開口部は防火設備となります。(水平・垂直方向とも)
なお、実務的な知識としては、500㎡区画、1000㎡区画は、法第27条等の規定による準耐火建築物が対象で、任意で準耐火建築物とした場合は、1,500㎡の面積区画で足ります。
同条の解説をしているウェブページの中には、準耐火建築物であれば500㎡もしくは1,000㎡の区画が必要と錯誤する書き方をしている場合がありますが、誤りであるため要注意です。
竪穴区画
同様に耐火建築物(+イ準耐火建築物)の場合、竪穴区画が求められますが、この時、開口部に求められる性能は、防火設備です。
また、吹抜けの規模(設置階)によっては、竪穴区画が適用されない場合もありますので、整理していきましょう。
11 主要構造部を準耐火構造とし、かつ、地階又は3階以上の階に居室を有する建築物の住戸の部分(住戸の階数が2以上であるものに限る。)、吹抜きとなつている部分、階段の部分、昇降機の昇降路の部分、ダクトスペースの部分その他これらに類する部分(当該部分からのみ人が出入りすることのできる公衆便所、公衆電話所その他これに類するものを含む。)については、当該部分(当該部分が第1項ただし書に規定する用途に供する建築物の部分でその壁(床面からの高さが1.2m以下の部分を除く。)及び天井の室内に面する部分(回り縁、窓台その他これらに類する部分を除く。以下この項において同じ。)の仕上げを準不燃材料でし、かつ、その下地を準不燃材料で造つたものであつてその用途上区画することができない場合にあつては、当該建築物の部分)とその他の部分(直接外気に開放されている廊下、バルコニーその他これらに類する部分を除く。)とを準耐火構造の床若しくは壁又は法第2条第九号の二ロに規定する防火設備で区画しなければならない。ただし、次の各号のいずれかに該当する建築物の部分については、この限りでない。
一 避難階からその直上階又は直下階のみに通ずる吹抜きとなつている部分、階段の部分その他これらに類する部分でその壁及び天井の室内に面する部分の仕上げを不燃材料でし、かつ、その下地を不燃材料で造つたもの
二 (略)
建築基準法施行令第112条9項
令112条9項一号の規定により、不燃材料で作られ、避難階とその直上階(もしくは直下階)のみの吹抜けは、竪穴区画の適用を受けません。
3階建の場合、下図の中で一番右側のパターンは、竪穴区画の適用を受けません。
また、竪穴区画には、面積区画と同様に「スパンドレル」が必要となります。
異種用途区画
令112条18項の規定により求められる異種用途区画は、同項で指定された部分とそれ以外の部分を区画するものです。
区画が必要な部分は、以下の3つが該当します。
- 建築基準法 別表第1に記載のある用途、規模
- 劇場・映画館・演芸場の用途で、主階が1階にないもの
- 別表第二(と)項第四号に規定する危険物の貯蔵場、または処理場の用途に供するもの
そして、この区画に設ける開口部に要求される性能は、特定防火設備です。
また、異種用途区画は、前述の「面積区画」及び「竪穴区画」とは異なり、「スパンドレル」は不要であることも押さえておきましょう。
ただし、異種用途区画は、試験上、該当しないものが多く、R3のような場合には、課題の特色として確認する項目として押さえておきましょう。
試験的対応
試験対策として、面積区画は基本的に各階の水平区画とするのが最も簡単かと思います。
その時、竪穴区画は、面積区画を兼ねることになり、該当する開口部の性能は、特定防火設備としています。
また、上図右側の場合でも、竪穴区画の適用な受けませんが、面積区画は別途、検討する必要があります。
H30からR3まで続けて、標準解答例の図中に防火区画の基本的な考え方が示されました。(非常に意味もあるものだと思います)
また、H30やR1の場合、2案公表される標準解答例のうち1案は水平区画による面積区画としていますが、もう1案は、階を跨いで1,500㎡以内となるよう区画しています。
実際の建物では、後者の方が多いのではないでしょうか。
近くの商業施設などに行ったときそういった視点で建物を見るのも勉強になります。
注意すべきポイント
製図試験では、3階建で3層の吹抜けを求められることが多いです。
その時、1階の竪穴区画(シャッター)を忘れやすいので注意が必要です。
一般に吹抜け下部は、エントランスホールであることが多く、主出入口の風除室を含む場合は、避難経路の確保も忘れてはいけません。
法規的なNGは、空間構成のNGと違い明確な基準があるため、足切りの対象になりやすいので十分に注意しましょう。
まとめ
- 一級建築士の製図試験で取扱う規模・用途の建物は、「耐火建築物」に該当する
- 耐火建築物の場合、面積区画は1,500㎡以内毎(スプリンクラーを使用しない場合)
- 面積区画の開口部に求められる性能は「特定防火設備」
- 竪穴区画の開口部に求められる性能は「防火設備」
- 試験において階を跨ぐ面積区画も標準化してきている